ランチェスター戦略を簡単解説!10分でわかる総まとめ

ランチェスター戦略 解説

ランチェスター戦略の簡単解説

ランチェスター戦略とは、1914年にフレデリック・ランチェスターが軍事用に考案した戦闘モデルである「ランチェスターの法則」をマーケティング戦略に応用したものです。

このページでは、ベースとなった「ランチェスターの法則」と合わせて、中小企業経営に役立つ「ランチェスター戦略」のポイントを説明していきます。

まずは、ランチェスター戦略の元となった「ランチェスターの法則」について見ていきましょう。

ランチェスターの法則とは?

ランチェスターの法則は、軍事用に考案された戦闘モデルで、「第一法則」と「第二法則」に分かれています。

ランチェスターの法則「第一法則」は、戦場において部隊が一対一で対峙し、お互いが白兵戦で戦うことがベースになっています。第一法則の場合、部隊の持つ武器の質や武器効率の差や兵員数の差が勝敗につながってきます。

一方、ランチェスターの法則「第二法則」は、部隊はお互いの敵情を知り、一人が多数に対して攻撃可能という前提になっています。第二法則の場合、第一法則に比べて、より兵員数の優位性が高くなる理論となっています。

では次は、ランチェスター法則における「第一法則」と「第二法則」を詳しく見てみることにしましょう。

ランチェスターの第一法則とは?

ランチェスターの法則における「第一法則」は、2つの軍が1対1で対峙した後に激突するような白兵戦中心の戦いでの戦闘モデルで、昔の戦いをイメージすると良いでしょう。

ランチェスター第一法則では、それぞれの軍の戦闘力は次の計算式で求めることができます。

戦闘力 = 持っている武器の性能 × 兵員数

つまり、同じ武器の性能であれば兵員数が多い方が勝ち、同じ兵員数であれば武器の性能が高い方が勝つことになります。

そして、5000名の軍勢(A軍)と3000名の軍勢(B軍)が武器の性能に変わりのない状態で戦うなら、A軍勝利して2000名の軍勢が残るというのが第一法則です。

古来より史実に残る戦いは数多くありますが、第一法則の理論通り、兵力に勝る方が勝つ例がほとんどです。ごく稀に少数の側が多数の側を破る例もありますが、その場合は地の利や戦術によって相手の兵力の大部分を無力化し、局地的には兵力の優位状態を作り出しています。

例えば、少数で多数を圧倒した代表的な戦闘である「桶狭間の戦い」で見てみると、

桶狭間の戦いの場合は、攻めてきた今川義元軍が3万人前後だったのに対して、迎え撃った織田信長軍は3千人程度と言われていますが、実際に桶狭間で戦った時には、いくつかの戦場に兵力を分散させた今川軍は本隊の約5千人に減っており、約2千人で攻めた織田軍との兵力差は少なくなっていました。

さらに、今川軍が休息中で即応体制が取れない時に、悪天候を生かして奇襲を仕掛け、目標を主将たる今川義元の首に絞ることで、織田信長軍は、桶狭間という局地戦では、実質的な兵力の優位状態を作り出していたと言えます。

ランチェスターの第二法則

ランチェスターの法則における「第二法則」は、一人が多数に対して攻撃ができる銃器や火砲が発達した近代以降の戦闘モデルです。敵の位置を把握し、一人が多数に対して適切に攻撃ができるようになった点で第一法則とは異なります。

ランチェスター第二法則では、それぞれの軍の戦闘力は次の計算式で求めることができます。

戦闘力 = 持っている武器の性能 × 兵員数²

つまり、第二法則では、戦闘力が兵員数の二乗に比例することで兵力の多い方が圧倒的に有利になってきます。

例えば、同じような武器性能(武器性能=1)の艦艇同士が海戦で戦うことを想定してみましょう。10隻の艦艇による軍(A軍)と6隻の艦艇による軍(B軍)が激突した場合、第二法則では、戦闘力は兵力の二乗に比例しますから、

A軍の戦闘力は 100、B軍の戦闘力は 36 となります。

A軍とB軍が戦うと、第一法則の場合も第二法則の場合も兵力に勝るA軍が勝つことには変わりありませんが、第一法則であれば4隻残して
A軍が勝つのに対して、第二法則では戦闘力の差(64 = 8²)が8となり、8隻残してA軍が大勝することになります。

つまり、ランチェスター第二法則の条件下では、兵力が多い方が圧倒的に有利に戦うことができ、兵力に劣る側が勝利を収めることは非常に困難となります。

ランチェスター戦略とは?

ここまでランチェスターの法則(第一法則・第二法則)を見てきましたが、この軍事的な戦闘モデルである「ランチェスターの法則」を企業のマーケティング戦略に活用したものが「ランチェスター戦略」です。

ランチェスターの法則での第一法則・第二法則を「ランチェスター戦略」に当てはめてみると次のようになります。

【ランチェスター戦略の第一法則】

販売力 = 販売リソースの質 × 販売リソースの量

ランチェスター戦略の第一法則は、「一騎打ち」「局地戦」「接近戦」が行われる限定的なマーケットで適用されます。

【ランチェスター戦略の第二法則】

販売力 = 販売リソースの質 × 販売リソースの量²

ランチェスター戦略の第二法則は、「広域戦」「確率戦」「遠隔戦」が行われる大きなマーケットで適用されます。

ここで言う「販売リソースの量」とは、社員数・営業社員数・販売協力者(アフィリエイターや販売代理店)の数・広告の量などを指し、「販売リソースの質」とは、社員の質・販売協力者の質・広告の質などを指します。そして、マーケットが大きくなればなるほど、販売力において「販売リソースの量」がものを言うことになります。

ランチェスター戦略:弱者の戦略

中小企業のように兵力に劣る弱者が強者に勝つには、まず「第一法則」の状況に持ち込む必要があります。

ランチェスター第一法則の特徴は、端的に言うと「一騎打ち」「局地戦」「接近戦」です。さらに、小が大を倒す場合は「一点集中」「陽動作戦」という条件が必要となってきます。

上でも触れた「桶狭間の戦い」で見てみましょう。

桶狭間の戦いは中世の戦いですので、そもそも「一騎打ち」「局地戦」「接近戦」の戦いですが、決戦の場となった桶狭間は、より「一騎打ち」「局地戦」「接近戦」の様相を呈していました。さらに、もともと約3万人の大兵力で攻め込んだ今川軍ですが、諸城攻略のために兵力を分散させており、桶狭間には本隊約5千人のみの状態であり、織田軍が企図した訳ではありませんが「陽動作戦」による兵力分散と同等の状況となっていました。

この状況で織田信長は、動員できる兵力3千〜5千の内、城の防衛への兵力は最小限にとどめ、桶狭間での決戦に2千人の精鋭を率いて臨みました。まさに、兵力の「一点集中」を行った訳です。さらに、目標を今川義元の首に絞り込むことで「一点集中」の度合いを高めることになりました。

さらに、悪天候直後の奇襲となったこともあり、桶狭間の局地的な戦力で織田軍は今川軍を上回り、勝利を得た訳です。

つまり、あらゆる面で経営リソースに劣る中小企業が大企業に勝つためには、織田信長が桶狭間の戦いで行ったように「一騎打ち」「局地戦」「接近戦」へ大企業を引きずり込み、「一点集中」「陽動作戦」によって局地的な兵力の優位状態を作り出す必要があるわけです。

では、弱者が強者に勝つ為の5つのランチェスター戦略である「一騎打ち」「局地戦」「接近戦」「一点集中」「陽動作戦」を順番に見ていきましょう。

まず「一騎打ち」ですが、敵が大軍を擁していても、少数しか戦場に投入できない状況を弱者の側が作り出すことを指します。

実際のビジネスで考えるなら、大企業にとってはニッチだが、自分たちにとっては十二分に成り立つ規模のマーケットで戦いを挑むべきです。さらに、複数の競合相手が存在するマーケットではなく、一社との競合になるようなマーケットを選定することで、中小企業でも大企業に勝てる可能性が高くなります。

次に「局地戦」ですが、経営リソースが大企業に劣る中小企業においてビジネスの領域を広げることは、ただでさえ少ない経営リソースがさらに分散することを意味しています。

事業領域を広げる、営業テリトリーを広げる、商品構成を広げることは、自分たちの戦うマーケットが広がる訳で、広いマーケットになればなるほど、社員数・営業社員数・販売協力者の数・広告の量などの “販売リソースの量” がものを言うことになります。

経営リソースが分散した状態で、“販売リソースの量” の不足を “販売リソースの質” で補おうとすると痛い目を見ることになるでしょう。

3点目の「接近戦」ですが、ランチェスター戦略では「顧客との距離を縮める」ことを意味しています。

大きなマーケットで戦わなければならない大企業では、顧客との距離感は遠くなりがちです。販売代理店等を介することでよりキメの細かいサービス提供をするなど顧客との距離感を縮める努力はしている会社もありますが、間接的な顧客アプローチになることで価格が割高になったりといったデメリットも多々あります。

そこで、体力に劣る中小企業は、エリアや商材・技術などを絞り込むことで「局地戦」「一騎打ち」ができるマーケットを作り出し、顧客との距離を縮めることでライバル社に勝てる体制を作る必要があります。

次に4点目の「一点集中」です。ランチェスター戦略における「一点集中」とは、重点となるマーケット(勝てる見込みのあるマーケット)を決めて、そこに企業のリソースを集中させる戦い方になります。

企業体力に劣る中小企業は、様々な分野・マーケットに手を広げていては大企業に勝てません。勝てる見込みがある分野やマーケットにヒト・モノ・カネといった企業リソースを集中して投入することが重要です。

「一点集中」では、今後成長が期待できる分野かどうかよりも、ライバル社に勝ち、トップシェアが取れるかどうかを重視するべきです。

最後が5点目の「陽動作戦」です。

ランチェスターの第二法則では、戦闘力が兵員数の二乗に比例することで兵力の多い方が圧倒的に有利になります。ランチェスターの第二法則が成り立つ前提条件の一つとして「お互いが相手の内情を把握している」ことが挙げられます。

ランチェスター戦略において、弱者が強者を倒すためには、強者に第二法則へ持ち込ませず、第一法則の状態にとどまらせる必要があります。つまり弱者の側は、強者に自分たちの内情や意図を把握されないようにしなければなりません。

その為に行われるのが「陽動作戦」です。

ランチェスター戦略の場合、弱者が取るべき戦略は「一騎打ち」「局地戦」「接近戦」「一点集中」といった内容でシンプルです。加えて、掛けられるリソースにも限りがありますので、実際に取りうる戦術はシンプルになりがちです。そこで、自社の意図がライバル社に見えないようにし、ライバルの人員などの量的な販売リソースを分散させることが必要です。

ランチェスター戦略:強者の戦略

大企業が中小企業の挑戦を退けてマーケットを制するには、「第二法則」の状況に持ち込むことで戦いを有利に進めることができます。

ランチェスター第二法則の特徴は、端的に言うと「広域戦」「確率戦」「遠隔戦」です。さらに、弱者の側に第一法則の状態へ持ち込まれないよう「総合戦」「誘導作戦」といった戦法を取ることが重要です。

ここでは、ランチェスター戦略の強者の戦略と呼ばれる「広域戦」「確率戦」「遠隔戦」「総合戦」「誘導作戦」の5つの戦略について順番に見てみることにしましょう。

まず「広域戦」ですが、ランチェスター戦略における「広域戦」とは、大きなマーケットを押さえるような戦い方で、ランチェスター第一法則での「局地戦」の対極にあります。

「局地戦」によってエリアを絞って優位に立とうとする弱者に対し、全国的な代理店やフランチャイズ店展開によりきめ細かくエリアを支配し、新たなライバルが入り込む隙を与えないような戦い方が「広域戦」になります。

強者の戦略の2点目は「確率戦」です。
ランチェスター戦略における「確率戦」は、ランチェスター第一法則の「一騎打ち」の対極にある戦い方になります。

弱者は、競合関係が少なくシェア獲得競争が一対一になるようなマーケットを目指し、ニッチな分野を探しています。そこで、強者の側としては、消費者ニーズにより商品構成を細分化した上で、新製品を常に開発し続けていきます。

多数の商品やサービスをマーケットに展開することで、エアポケットのようなニッチなマーケットができることを防止し、「一騎打ち」の戦略を弱者の側がとれなくしていくことが可能になるわけです。

次に強者の戦略の3点目が「遠隔戦」です。
ランチェスター戦略における「遠隔戦」は、ランチェスター第一法則の「接近戦」の対極にある戦い方です。

例えば、個々人の営業力で顧客を開拓していく弱者に対して、顧客に対する一対一での営業力勝負を挑むのではなく、豊富なリソースを生かして、販売代理店を構築したり、大規模なキャンペーンを展開したり、大々的にテレビCMで告知をしたりするのが「遠隔戦」です。

いかに優秀な人材でも個々人の能力には限界がありますので、人手やコストが掛かる方法を使って弱者に対抗することが重要となります。

強者の戦略の4点目は「総合戦」です。
ランチェスター戦略における「総合戦」は、ランチェスター第一法則の「一点集中」の対極にある戦い方になります。

「総合戦」は、あらゆるマーケットを網羅するマーケティング戦略です。あらゆる地域のあらゆる属性をターゲットとし、商品やサービスのラインナップを増やし、新規開発を継続し、様々な媒体を活用して告知を行っていくのが、ランチェスター戦略における「総合戦」です。

大会社は会社の規模を生かし、すべての層に対するマーケティング活動を行うことで、弱者が挑戦する隙を与えない戦い方となります。

そして、最後の5点目が「誘導作戦」です。
ランチェスター戦略における「誘導作戦」は、ランチェスター第一法則の「陽動作戦」の対極にある戦い方です。

弱者は「陽動作戦」により、手の内を明かさぬようにして戦いを挑んできます。一方、強者の側は「陽動作戦」に乗せられないように(あるいは乗せられたように見せかけ)、自社にとって有利だったり、弱者が嫌がる戦い方やマーケットへ弱者を引きずり込むことになります。

例えば、マーケットの需要低迷期に敢えて主力商品を値下げしたり、競合商品に大量の広告を打つことで「競合商品=強者」といったブランドイメージを消費者に植え付けることも「誘導作戦」の一つです。弱者は、こうした強者のマーケティング戦略に対応するために、想定外の商品値下げや対抗広告を余儀なくされることになります。

弱者にこそ「ランチェスター戦略」は必要:まとめ

ここまで「ランチェスター戦略」について見てきました。

古来より戦いにおいて「弱者が強者を倒す」ケースは非常に稀です。

そして「弱者が強者を倒す」場合でも、実際は “強者” の力が分散し、“弱者” の側が局地的に有利な状況を作り出した場合にのみ “弱者” が勝利を手に入れています。

弱者が勝ちを収める条件は非常に厳しいと言えますが、その数少ない勝利の条件について、ランチェスター戦略は現代においても有効。自分が “弱者” で勝たねばならない状況にあるなら、ランチェスター戦略はきっと多くのことを示唆してくれるでしょう。

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