キチンの波とは
キチンの波とは、景気循環に関する学説の一つで、アメリカの経済学者であるジョゼフ・A・キチン博士が提唱したことからこう呼ばれています。
景気循環については、多くの捉え方がありますが、「キチンの波」は「在庫」に着目したもので、在庫の量を企業が調整することに伴って、生産量の拡大や縮小が起こり、景気が循環するという学説となっています。
キチンの波は、約40カ月周期という、景気循環説の中では比較的短い周期を捉えたものですが、流れとしては、次のようなことが循環的に起こるところが影響すると言われています。
- 生産量増加で在庫が増える(主に好景気の終わりに差し掛かるときで、生産量が大きく拡大している時と言えます)
- 生産量減少で在庫は増える(生産が過剰気味となることによって、在庫が増えていくというものです。当然のことながら、生産量の調整は行われますが、出荷量が伸びないために、在庫数が増えてしまうという結果になります。この段階から景気の後退が始まります)
- 生産が減少し在庫が減少する(景気は悪化しますので、生産量を減らさざるを得なくなり、それによって在庫の量も減っていきます。この状態で、景気の後退現象がそろそろ終盤になります)
- 生産増加で在庫が減少する(出荷量が相対的に増えていくため、生産量を増やして対応することとなり、景気も好転する、消費も増える、そして在庫が減少するということとなり、景気が上昇傾向となります)
この「キチンの波」は、1923年に発表されたものです。在庫に着目したこの説は、長い間景気循環の基本的なものとして尊重されてきましたが、1990年代に入り、アメリカが長期の好況経済となったときに、次第に不明瞭化したと言われています。
確かに、近年の景気に関してはそれまでの時代と異なり、景気に影響を与える因子が複雑となり、景気の波も一つの尺度はとらえきれなくなっているので、「キチンの波の40カ月周期」は、実態面では必ずしもぴったりとあてはまることはなくなっています。
しかし、他の景気循環の波(有名なコンドラチェフの技術革新に着目した「50年周期説」や住宅や商業施設の建て替えということに着目したクズネッツの「約20年の周期説」など)とともに、年数は別にしても参考になる説であることには間違いありません。