クズネッツ曲線とは
クズネッツ曲線とは、1950年代にアメリカの経済学者サイモン・クズネッツが提唱した曲線で、X軸に社会経済的発展、Y軸に不平等をとった逆U字曲線のことです。
クズネッツ曲線が示す仮説によれば、経済発展の初期段階においては、ほとんどすべての人が生産性も賃金も低い産業に就業していて所得の全体的な不平等が生ずる余地はほとんどないものの、経済が発展するにしたがって安価な農村労働が都市に流入することで労働者階級の賃金が低下して、所得格差が拡大して経済格差が拡大するとされます。
クズネッツは、この段階においては所得の増加を享受するためには、所得の再配分の不平等は甘受すべきとしました。
しかし、この段階を超えて国が発展すると、低生産性部門における労働力のシェアが縮小し続けて、平均所得が増加し続けているにもかかわらず、所得格差は縮小し始めます。そして最終的には、労働力全体が近代的な高生産性部門に吸収され、平均所得が高まると同時に、所得格差が比較的低いレベルに低下する、というのがクズネッツ曲線とその仮説です。
1980年代後半まではクズネッツ曲線が示す仮説の正しさを誰も疑っていませんでしたが、近年はこのクズネッツ曲線に反するデータが出始めてきました。
所得や資産の格差や不平等を図る指数である「ジニ係数」が1980年代から先進民主主義国家で軒並み上がり始めているという事実です。つまりクズネッツの唱えた仮説に反して、世界の不平等化が進んでいるということが示されているわけです。
クズネッツ曲線は現在の社会にはそのまま適用されるとはいいがたく、トマ・ピケティは大恐慌から戦時期に至るまで特殊な現象を一般化したに過ぎないと批判しています。
むしろ最近では、環境面に関してこの曲線を適用する「環境クズネッツ曲線」という考えが提唱されています。環境クズネッツ曲線によれば、経済が発展するにしたがって二酸化炭素の排出量が減少に転じる可能性があることになり、所得と環境負荷の間に逆U字型の関係が成立すると主張する仮説です。
このクズネッツ曲線の仮説が環境面で成り立つなら、経済の発展と環境保護はいずれ両立させることが可能であると期待されています。