スラップ訴訟とは
SLAPP(スラップ)とは、「Strategic Lawsuit Against Public Participation」の頭文字を取った略語で米国で生まれた概念です。
スラップ訴訟を直訳すると、市民参加を排除するための戦略的訴訟となりますが、恫喝訴訟、嫌がらせ訴訟と訳されることが多いです。
スラップ訴訟とは、提訴することによって被告への嫌がらせを目的として行われる訴訟のことをいいます。例えば、特定の企業の批判記事を書いたジャーナリストが、その企業から名誉棄損で法外な金額の損害賠償を請求されるような訴訟のことです。
ユニクロで知られるファーストリテイリングが文芸春秋社に対して行った訴訟がスラップ訴訟の例と言われています。これは、ユニクロの過酷な労働環境を告発した文芸春秋社の「ユニクロ帝国の光と影」という書籍に対して、ファーストリテイリングが2億円を超える金額の損害賠償と出版差し止め、発行された書籍の回収を求めた裁判でした。
判決は一審、二審、最高裁ともすべてファーストリテイリングが敗訴しています。しかしスラップ訴訟の問題は、原告が敗訴した場合でも、被告は法廷準備費用や時間的拘束などの負担が強いられるところにあります。嫌がらせが目的なので敗訴してもその目的は達成されます。
また、スラップ訴訟は見せしめ行為でもあります。ユニクロの例をとってみると、ユニクロの評価を下げるような記事を書こうとしたとき、訴えられることを恐れて記事を書くのを止めてしまうといったことが起こりえるのです。
スラップ訴訟は、訴訟の先進国ともいえる米国で始まったもので、表現の自由をゆるがす行為として欧米を中心に問題化しています。そのため、米国ではスラップ訴訟の研究も進んでおり、カリフォルニア州では、スラップ訴訟を禁じる法律(反スラップ法)が制定されています。これは、被告側が提訴をスラップ訴訟であると反論してそれが認められれば公訴は棄却され、訴訟費用の負担義務は原告が負うというものです。
日本でも2000年頃から内部告発を行った元従業員や企業や自治体を批判する被害者団体、あるいはその支援団体などに対して名誉棄損や業務妨害という名目で高額な損害賠償を請求する民事訴訟が乱発するようになり、スラップ訴訟の問題が認識されるようになってきました。
しかし、スラップ訴訟の問題はまだまだ浸透しているとはいえない状況で、日本も含めた米国以外の国では研究が進んでいないのが現状です。
次は「スラップ訴訟をされたらどう対応する?」を見てみる