健康経営とは?
健康経営とは、従業員の健康を個人の問題として片付けず、企業が積極的に関与して配慮することで、従業員すべての健康維持と活力アップを実現し、企業としての生産性を高めて、組織全体の活性化を促すことを目指す経営手法の一つです。
健康経営に取り組みは、単に企業業績そのものを伸ばすだけではなく、従業員が健康的に働けて良い職場としての評判が高まり、企業ブランドそのものをアップさせる狙いもあります。
健康経営により従業員の健康管理や増進のために幾分かのコストがかかっても、巡り巡って企業に多大なる利益をもたらすことから、単なる健康管理や福利厚生的な取り組みではなく、緻密な経営戦略である点がこれまでにない特色と言えます。
健康経営の発祥
健康経営の取り組みは、米国のある経営心理学者によって始められました。「健康な従業員こそが企業において高い収益を上げる」といったヘルシーカンパニーの理念をもとに、健康と経営を別々に考えず、経営に役立てる観点から健康管理を捉えて、従業員の健康維持と増進が企業体力をも高め、それが社会全体への貢献にも繋がっていき、体系づけられていきました。
日本において健康経営が生まれた背景
一方、日本において「健康経営」が生まれた背景としては、近年社会問題になっている長時間労働や、パワハラといった精神的にも過酷な労働環境によって、うつ病などの精神疾患や自殺、過労死などの増加に対して抱く人々の危機感があり、国の働き方改革の推進などもあって、いかに健康的に働ける職場環境を作るかといったことへの関心が、これまで以上に高まって来たことがあります。
全国健康保険協会でも、各都道府県支部ごとに企業全体での健康づくりへの取り組みを推奨し、「健康宣言」を行って健康経営に対して賛同している企業に対し、サポートを行ったり、健康優良企業といった認定制度を設けて表彰を行うなど、積極的な推進を試みています。
健康経営と少子化
今後加速する少子高齢化社会に向けては、健康経営は積極的な経営戦略ということ以外にも、切実な対策という側面もあります。つまり、優秀な若手社員の獲得への布石です。今後日本においては、若い世代の人口が減少していく流れは止めようもなく、有望な新入社員の争奪戦は、この先一層激しくなることが予想されています。
先般も、知名度の高い企業において過労自殺が問題になり、そういった報道に接して成長してきた若い世代は、企業の真の価値はネームバリューでなく、安心して働き続けられるホワイト企業かどうかという点に重きを置くようになっています。
そして、これから就職活動を行う世代は、自分の未来の職場にふさわしいかを見極めるために、ネット検索によってその企業がホワイトかブラックかを調べます。企業名を入れるだけで判定結果が出たり、実際に働いていた人や現役社員が匿名で口コミを寄せているサイトもありますが、得られる評判によってブラック企業として認定されてしまった場合、その情報は素早く共有され、多くの人の就職先候補から外されてしまいます。
逆に、積極的に健康経営を行っている企業は、従業員を大切にする優良企業として内外から認められ、その評判は「健康に長い間働き続けられるホワイト企業」という、就職先として最高のブランド力を得ることになります。
健康経営と高齢化
また、従業員こそが宝という点では、長年業務に携わり貴重な戦力であるベテラン従業員がシニア世代になった時の配慮も重要となります。加齢によって高まる疾病リスクを抑えるための対策を企業が行うことで、医療費の増加を抑制して健康保険組合の業績悪化を防ぐといった面では、従業員の健康を守るだけにとどまらず、経営に直接関わるリスク回避の対策とも言えます。
健康経営と中小企業
そもそも、体調を崩した従業員が通院のために早退や欠勤してしまったり、入院によって長期休暇することになれば、それだけで多大な悪影響を及ぼすことになってしまいます。そういった意味では、健康経営は企業の未来を創る雇用への戦略であり、理想的な経営状態を守り続けていくために最も重要な戦略と言えます。
健康経営は、今はまだ大手企業を中心に推進されている段階ですが、中小企業にも徐々に積極的に取り組む会社も出てきています。今後、会社の規模にかかわらず、日本のあらゆる業界の企業に浸透していき、日本社会としての経営環境の質を向上させて、真に豊かな国を実現させることが求められています。
中小企業は、従業員の健康への取り組みに積極的にかかわるだけの余裕がないといった懸念もありますが、企業の体力の源である従業員の健康向上はもちろん、雇用についてのイメージアップがいかに大切かを考える上で、健康経営は、むしろ中小企業にこそ必要な経営戦略であるという意識を持つ必要があります。
そのためには、健康な従業員が元気に働いて収益を上げるといった短期的なメリットだけではなく、企業としての好感度アップがもたらす長期的なメリットなども含め、健康経営による費用対効果の真価を広めることも大切でしょう。