労働協約とは
労働者と企業の関係を規律する決まり事には、労働契約・就業規則・労使協定・労働協約があります。まず、労働協約以外の労働契約・就業規則・労使協定の概要を見てみると、
- 労働契約:労働者個人と企業による労働条件に関する合意です。
- 就業規則:企業が一方的に定めることができる企業内のルールです。
- 労使協定:労働者の過半数を代表する者と企業との間に締結される協定です。労使協定の締結により免罰的効力が生じます。労働基準法では1日8時間、1週間で40時間を超える労働が原則として禁止されますが、労使協定を締結することで労働基準法に定められた時間を超過して業務に従事させることも可能になります。
では、本題の「労働協約」について見てみましょう。
労働協約とは、労働組合と使用者との間に労働組合法14条の規定に基づいて締結される協約です。労働協約として認められるためには書面に記載し、両当事者の署名または記名押印が必要で、労使間の契約としての機能の他にも債務的効力や規範的効力、一般的拘束力が付与されることにより公正かつ安定的な労使関係の構築が図られることになります。
労働協約には「規範的な部分」と「債務的な部分」が存在します。
規範的な部分とは、労働条件その他の待遇に関する基準を定めた部分のことで、賃金や労働時間、休日・休暇などの事項が含まれます。債務的部分とは規範的部分以外の事項で、組合活動に関する取り決めなどです。使用者が労働者の賃金から組合費を控除して組合に引き渡すチェックオフや、ストライキを行う前に労働委員会による斡旋などを必要とする平和条項は債務的部分に含まれます。
労働協約の規範的部分や債務的部分に違反した労働者と使用者は、損害賠償など債務不履行責任が問われることになります。当事者に課せられる債務不履行責任のことを「債務的効力」と呼びます。
また、労働契約が労働協約の規範的部分に違反する場合には、労働契約の違反部分が無効となります。無効となった部分や労働契約において定めがない部分は、労働協約の定めが適用されます。違反部分を無効とし、労働協約の基準を適用する効力は「規範的効力」と呼ばれます。
基本的に労働協約の効力が及ぶのは、労働協約を締結した労働組合の組合員に限定されますが、一定の場合にはそれ以外の労働者にも適用されることがあります。ある事業所において常時使用される同種の労働者の4分の3以上の労働者が、1つの労働協約の適用を受ける場合にはその他の同種の労働者にも拡張して適用されます。
さらに特定の地域において大多数の同種の労働者が1つの労働協約の適用を受ける場合には、労働委員会の決議に基づいて他の同種の労働者と使用者にも拡張して適用されることがあります。一定の場合に労働協約を締結した当事者以外にも適用される効力を「一般的拘束力」と呼びます。