ゆでガエル理論とは
ゆでガエル理論とは、イギリスの思想家であるグレゴリー・ベイトソンが提唱した説で、経営者が心するべき警句です。
「ゆでガエル理論」の意味について簡単に説明してみましょう。
カエルは熱湯に入れると驚いて飛び出しますが、冷水から徐々に温度を上げていけば、変化に気づかず、やがてゆであがって死んでしまいます。同様に、企業においては急激な変化には懸命に対処しようとします。しかし、事態がゆっくりと推移するときには、対応が遅れがちになるものです。その結果、気づいたときには深刻な危機に陥っており、破綻するしかなくなるというのが、ベイトソンの説です。特に成功体験に縛られた企業や、ワンマン経営を続けてきた会社などでは、こうした状況に陥りがちと言われています。
日本では、この「ゆでガエル理論」が1998年に紹介されるや一大センセーションを巻き起こしました。多くの論客も取り上げるなど、人口に膾炙した感のある「ゆでガエル理論」は、それだけ心当たりの多い事柄だったといえます。
日本企業は、世界各国のライバルたちがグローバル化していく中でも、なかなか変革が進まず、事なかれ主義が大勢を占めてきました。「ゆでガエル理論」はそんな状況を端的に指し示す言葉として、社会へと受け入れられていったのです。
ところで、ゆでガエル理論とは、実際の自然現象に基づくものなのでしょうか?
19世紀における生物実験では、確かにこれに類似する現象が報告され、学術雑誌にも掲載されました。しかし20世紀後半になると、これに疑義を唱える人が出てきます。
1995年にはアメリカのビジネス誌上において、生物学者と国立自然史博物館の見解を掲載しました。両者とも、カエルは熱くなる前に察知して飛び出してしまうと回答して、学術的見地から改めて否定されたのです。21世紀に入ってからも、オクラホマ大学の教授が、すでに動物実験によって否定されていることを発表しています。
現在においては、「ゆでガエル理論」とは一種の疑似科学であり、思考実験にすぎないという評価が下されています。それでもなお廃れないのは、人間の本質を正しく指摘しているからです。
現状維持バイアスというものは、生存には必要不可欠なものです。しかしときにはそれが、かえって発展を妨げて、破滅的な終局へと向かわせることもあります。ある意味では、人間の判断というものは、カエルにも劣ってしまうものです。
だからこそ、常に自己を振り返るための冷静さと、選択を誤らないだけの知恵が求められます。「ゆでガエル理論」とは、競争が激しい現代社会において、自分を見つめ直すための鏡とも言えるのではないでしょうか。